日本国内で行われる治験の大半は、日本国籍をもつ日本人を対象にしている。外国籍をもつ人や、二親等以内に外国籍をもつ人がいる人は、治験に参加できないことが多い。一方で、割合は低いものの、日本人とは異なる人種を被験者として募る試験もある。昨今は、このような外国人を対象にした試験が増えてきているという。多くの白人試験を手がけてきた大阪治験病院において、病院長を務める三上医師に、その現状を聞いた。
ニーズが高まる白人試験
2018年から受託環境を整備。
現在携わっている治験について教えてください。
日本の製薬会社が開発する新薬の治験に携わっています。健康成人男性を対象とした第Ⅰ相試験で、FIH試験(ヒト初回投与試験:First in Human)でもあります。プロトコールの中には白人試験が含まれており、白人健康成人男性の方に被験者になっていただいています。今回の試験に参加する全被験者の中で、外国人の占める割合は1割程度です。日本人の被験者でいくつかの用量の治験薬の安全性・有効性を確かめた後、2用量で外国人の被験者を対象にした試験を行う予定です。
外国人試験の需要は高まっているのでしょうか。
そうですね。およそ20年間治験に携わっていますが、ここ数年で特に需要が高まってきているように感じます。
外国人試験が行われるケースは主に2種類あります。ひとつは、日本の製薬会社が新薬を開発する場合。海外で販売することを視野に入れて、早期から外国人の薬物動態データを収集し、他国での承認申請に備えるケースです。もうひとつは、海外の薬を国内で販売する場合。薬の効果や安全性に人種差がないか確かめるため、日本人と外国人の双方で試験を行うケースです。
大阪治験病院が初めて白人試験を手がけたのは2011年。本格的に受託を始めたのは2018年からです。日本人試験に比べれば歴史は浅いですが、毎試験全力で向き合い、おかげさまで着実に実績を積み上げてきています。
白人試験の要は
正確なコミュニケーション。
白人試験において、特に注意している点は何ですか。
一番注意している点はコミュニケーションです。
ご存知の通り、治験ではインフォームド・コンセントを行う必要があります。私たち医師には、治験参加を検討している人に対して、治験の目的や方法、治験薬の特徴などを詳しく説明する義務があります。白人試験の場合は、これを英語で行わなければなりません。情報を正確に伝えるため、説明会では責任医師が自ら英語で治験の説明を行います。もちろん、説明文書や同意文書は英語で作成します。外国語で治験のすべてを解説し、完全に理解していただくことは、簡単なことではありません。神経と労力と時間を使う作業ではありますが、安全で迅速な治験を行うために欠かせないプロセスであると考えて、特に力を入れています。
また、説明会、スクリーニング、投薬などの際は通訳スタッフが現場に入り、サポートを行います。採血や採尿を行う際は、英語の掲示を出して注意点を伝えます。異国の地で治験に参加する外国人ボランティアの方々は、日本人ボランティアよりも不安や戸惑いを覚えることが多いことでしょう。コミュニケーションを円滑に行う工夫を重ねて、安心・安全にご参加いただけるよう努めています。
コミュニケーションの他に注意している点はありますか。
「食」も、注意が必要なポイントのひとつです。外国人ボランティアの中には、菜食主義の方が多いように思います。また、宗教上の理由で食事制限が必要な方もいます。食事を用意する際は、食べられるもの・食べられないものを事前に調査して、栄養士が特別なメニューを考案しています。
今後も、外国人ボランティアの方々に配慮できる点があれば随時対応を行い、より良い環境を整えていきたいと思います。
さらに実績を重ね
充実した環境を整えたい。
製薬会社の方に対して、メッセージはありますか。
前述の通り、大阪治験病院は2018年から本格的に白人試験を実施し、実績を積んできました。治験に特化した医療機関として、あらゆるオーダーに応える体制を整えることは、私たちの使命であると考えています。今後も多くの白人試験に取り組み、知識や経験を蓄え、より効率的かつフレキシブルに試験を行える医療機関に成長していきたいと考えています。製薬業界のグローバル化が求められる今、外国人試験を行う機会はますます増えていくでしょう。白人試験の受託先として、大阪治験病院をご検討いただければ幸いです。
(公開日:2021年 6月 23日)