前回の「治験の現場から002」では、大阪治験病院で行われる外国人試験について、病院長である三上洋医師にインタビューを行った。同病院では、2011年に初めて外国人試験を実施し、2018年より本格的な受託を開始している。今回は、被験者にとってもっとも身近な存在である看護師に、最前線の様子を聞いた。

初めて携わる外国人試験。
一番の懸念は「言葉の壁」。


2011年、初めて外国人試験を行うことになったときの印象を教えてください。

話を聞いたときは緊張しました。一番の懸念は言語の違いです。ほとんどの看護師は英語が話せないので、被験者さんとうまくコミュニケーションができるか不安でした。また、文化や習慣の違いも気がかりでした。入院中は、試験を正確に行うために、時間厳守と集団行動が求められます。海外の方にそのような状況を受け入れていただけるか心配でした。さまざまな問題を想定して、試行錯誤をしながら準備を整えて、本番に臨んだことを覚えています。

実際に試験を行ったときの印象を教えてください。

通訳の方に助けていただいたこともあり、また、必要な指示を英語で記した貼り紙を用意していたこともあり、思いのほかコミュニケーションで困ることはありませんでした。そして、被験者の方々はスケジュール通りに行動してくださり、心配していたような混乱は生じませんでした。これは、医師が事前説明会に力を入れていたことが大きかったと思います。試験や検査の内容をしっかり理解されていたから、落ち着いてご参加いただけたのでしょう。

現場での気付きを参考に
外国人試験のための環境を整備。


外国人試験を行う上で、驚いたことはありますか。

外国人試験の中でも、特に白人試験は驚くことが多かったように思います。大柄な方が多く、2Lサイズの寝巻でも手足がはみ出てしまったり、ベッドが窮屈そうだったり。また、「病室が狭すぎる」と言われたことや、虹彩の色素が薄いからでしょうか、「部屋が眩しい」と言われたこともあります。被験者さんの胸毛が多くて、心電図の測定ができないこともありました。体質や感覚の細かい違いは、現場に出なければなかなか分かりません。このような気付きを参考に、安心してご参加いただける環境を少しずつ整えていきました。また、経験を重ねたおかげで、次第に「外国人試験だから」と身構えることはなくなりました。現在は、日本人・外国人を問わず、どの試験にも同じ緊張感で臨んでいます。

「言葉の壁」には、どのように対処していますか。

現在も英語を話せる看護師は少ないのですが、英語の掲示、翻訳機、英語が堪能な医師のサポートを駆使して、円滑なやり取りを実現しています。また、コミュニケーションは言葉だけで行うものではありません。ジェスチャー、表情、行いも、思いを伝える手段になります。注射が苦手な被験者さんがいれば、事前にホットパックで腕を暖めたり、明るく元気な態度で励ましたりします。新人の看護師には、とにかく笑顔を忘れないように伝えています。言葉が通じないぶん、非言語コミュニケーションには自然と力が入るように思います。
日本語ができない被験者さんが、私たちが話す言葉を反復して覚えようとしてくださったり、「ありがとう」と言ってくださったりするのを聞くと、距離が近づいた気がして嬉しくなりますね。

新しい試験や前例の少ない試験にも
豊富な経験を生かして取り組む。


2011年当時の外国人試験のように、未経験の試験に携わる難しさは何ですか。

まず、正確かつ安全な試験を行うためには、入念な準備が重要です。経験したことがある試験であれば、過去の実績を参考にして準備を整えれば良いでしょう。未経験の試験が難しいのは、前例がないところです。どの作業にどれぐらいの時間がかかるか、どんな事態が起こり得るか、そこでどんな対応をするべきか。プロトコールから現場の状況を想像して、必要なものやことを洗い出し、当日に備えなければならないのです。

製薬会社に勤める方々に対して、メッセージはありますか。

大阪治験病院は、医師やCRCはもちろん、看護室にも経験豊富な人材が大勢います。ですから、前述のような前例の少ない試験にも、経験を活かして対応することができます。多種多彩な試験を知っている彼らは、プロトコールに記載されていない情報や展開を読み取り、準備に活かすことができます。また、仮にイレギュラーな事態があっても、冷静かつ迅速に対応することができます。製薬会社の皆さまにおかれましては、新しい試験や、困難な試験も、安心して私たちにお任せいただければと思います。

(公開日:2021年 7月 30日)