小児用医薬品は、成人用医薬品と比べて、開発が遅れる傾向にある。理由のひとつは、小児治験に精通した医療機関、医師、CRCの不足など、小児治験を実施する環境が不十分であるからだ。しかし、小児用医薬品のニーズは高く、開発の促進が望まれている。小児治験の特殊性とは何か。眼科分野を中心に幅広い経験をもつCRCに話を聞いた。


ワクチン、風邪薬、コンタクトレンズなど
さまざまな小児治験を受託。


インクロムでは、どのような小児治験を受託していますか。

小児治験の疾患領域は、ワクチンや風邪、アレルギー性鼻炎、近視など多岐に渡ります。私が所属する部署では、眼科領域の治験を数多く取り扱っていますが、そこでは近視抑制のコンタクトレンズ・オルソケラトロジー・点眼薬などの小児治験を受託した実績があります。 小児治験で数年間におよぶ長期試験や100例以上の多症例数の試験、治験ではないですが臨床研究やモニター試験にも小児対象の試験の実績があります。受託の多い時期・少ない時期はあるものの、とぎれることなく1~2試験は実施していると思います。


小児治験と成人治験の違いは何ですか。

まず、治験に参加するのは子ども自身ですが、本人に判断能力がなければ参加への同意を行うのは保護者であること。来院も保護者同伴が求められるケースがほとんどなので、子どもと保護者、双方への目配り・気配り・心配りが必要です。また、子どもの中には検査や問診に不慣れな子も多く、予想よりも時間がかかることもあります。成人治験と同じペースで検査・問診が進むと思わない方が良いかもしれませんね。このほか、子どもは成人よりも免疫力や抵抗力が低く、病気やケガをしやすい傾向があるので、その点も考慮に入れて計画を立てる必要があると思います。



「学校行事でキャンセル」「検査が怖い」など
小児治験ならではの事態に対応。


小児治験の難しい点とは何でしょうか。

ひとつはスケジュール調整です。子どもと保護者と医療機関の予定を合わせなければならないので、候補日がかなり絞られます。そのうえ、「新年度以降の学校の予定が分からない」「習い事の予定が急に入るかもしれない」というケースが多く、先々の計画が立てにくい。また、子どもは病気やケガをしやすいこともあって、日程変更の依頼も成人と比べて多いです。
もうひとつは、前述の通り、検査に慣れていない子どもが多いことです。たとえばコンタクトレンズの治験では、コンタクトレンズの装着が怖くて泣いてしまう子や、途中で疲れてしまって「帰りたい」と訴える子もいます。また、本人のやる気や疲労度が、視力検査の精度に影響するのも、子どもならではの特徴かと思います。


小児治験ならではの課題に対して、どのように対応していますか。

スケジュール調整で重要なのは、情報収集です。事前説明会の時点で学校や習い事の予定を確認することはもちろん、年度が切り替わるタイミングがあれば、新年度の予定を聞き出します。また、保護者が動ける時間・曜日も事前に確認。こうすることで、日程変更の依頼があったとき、すぐに代替候補日が出せるように準備しています。スケジュール通りに進まないことを前提に、イレギュラーに備えておくことが大事だと思います。
また、検査に慣れていない子どもに対しては、子どもに向けて検査内容を説明することで対応しています。たとえば眼圧検査なら、「この検査は目の固さを調べる検査で、目にパッと風をかけるよ。すぐ終わるから心配しないでね」と、保護者ではなく本人に説明します。それでも泣き出してしまったり、「帰りたい」と言うようであれば、時間を置いたり、日程を変更したりします。時間を置くことで、本人の中で整理がついて、前向きに参加できるようになることは多いですね。総じて、子どもの気持ちやタイミングを尊重することが大事だと思います。



きめ細かいコミュニケーションで
治験に参加する子どもと保護者に心配りを。


小児治験に携わるとき、心がけていることはありますか。

子どもや保護者と積極的にコミュニケーションをとることです。まず、子どもにたくさん話しかけることは、治験への不安や緊張を取り除くことにつながります。治験に参加するのは子ども自身であることを忘れず、きちんと向き合って接することは、特に重要なことだと思います。そして、保護者と密にやり取りをすることは、病気やケガなどの有害事象を細かく報告してもらうことや、日程変更の連絡を早めに入れてもらうことにつながります。こちらは、治験を確実・迅速に進めるために欠かせないことだと考えています。


小児治験に携わることにやりがいを感じることはありますか。

やりがいとは異なるかもしれませんが、子どもや保護者に「治験に参加して良かった」と感じてもらえたときは、ほっとするような、うれしいような気持ちになります。たとえば、治験薬や治験機器を使った子どもが、「目が見えやすくなった!」と笑顔で教えてくれるとき。また、保護者が「治験機器の管理や日々の記録を子どもに任せているが、責任をもってきちんと行っていて感心した」と喜ぶ姿を見るときなど。治験への参加が少しでもメリットになったと感じてもらえたときは、小児治験に携わって良かったと感じます。



経験豊富な医師・看護師・CRCが協力して
確実・迅速に小児治験を行う。


製薬会社に勤める方々に対して、伝えたいことはありますか。

さまざまな小児治験に携わってきたインクロムと平心会をはじめとする医療機関には、小児治験の経験が豊富な医師・看護師・CRCがいます。たとえば、私と同じ部署のCRCは、全員が小児治験を経験しています。小児治験ならではの特異な状況にも臨機応変に対応する力がありますので、安心してお任せいただければと思います。


(公開日:2024年 8月 27日)